成果を最大化することが人材育成

子育てに限らず、人を育てることは難しいですね。特に、人格の大部分が形成されてしまっている大人を育てる企業などの人材育成は、より難しい一面を持っていると思います。人材育成をアピールしている企業は多いですが、研修が充実しているだけで、真に人材を育成できているか怪しいのではないかと考えています。

こちらの記事によれば、マネージャーの悩みや関心事の第一位が「人を育てること」だったそうです。そんなに悩んで関心があるくらいだったら、もっと人材育成が上手でもいいのに...などと思ったりもするわけですが、悩んだり関心があっても、それが上手であることにつながるわけではありません。

著者はドラッカーのことばを引用しつつ、人材育成の勘所を紹介していました。なかなか共感できる内容でしたので、整理しながら人材育成の方法について考えてみようと思います。

職場でのやりがい

著者は、人材育成の勘所を導くために、まず職場でのやりがいについて述べています。著者の調査によれば、職場でやりがいを感じられる理由として、以下の3つが挙げられるそうです。

  1. 目的の共有
  2. 自由裁量を与えられ、任されていること
  3. 信頼関係とコミュニケーション

このうち、2についてがモチベーションに大きく影響を与えると述べています。1や3も、やりがいを感じるうえで重要な要因ではあると思いますが、2が格段に大きな影響を与えるということは実感として持てます。やはり、信頼され、任されるということは責任も大きいですが、その分やりがいにつながると思います。

ただ、ここで注意しなければいけないのは、上司から信頼されているという点です。上司が部下を信頼していないにもかかわらず任せるということであれば、それは単なる丸投げでしかありません。そのような状況では、モチベーションが高まらないどころか、不信感が生まれることになってしまいます。

やりがいが人を成長させる

部下を信頼して任せることによって、部下のやる気を引き出し、やりがいを持って仕事に臨んでもらうことができます。著者は、やりがい→成長という感じでさらっと説明しているのですが、共感はできるものの、説明としてはちょっと飛躍している感があります。

やりがいを持って仕事ができているということは、前向きに仕事に取り組めているということです。こういう状態ならば、みずから進んで新しいアイデアを創出したり、集中して仕事ができるので生産性も向上すると思います。つまり、任された仕事が成功する可能性が高いということになります。

仮に何らかの失敗があったとしても、真剣に取り組んだ結果の失敗なので、上司からのアドバイスも受け入れやすいと思います。中途半端な努力での失敗だとすると、「ちゃんとやればもっとうまくやれたはずだ」という思考が働き、素直にアドバイスを受け入れられなくなるように思います。

仕事が成功すれば、みずからの成功体験として大きな糧となります。これこそが成長だと思います。こういうやり方で進めてうまくいったという自信と経験が成長の証なんだと思います。つまり、人を育てるという思考で部下とコミュニケーションを取るのでなく、部下の能力を引き出して成果を最大化するという思考で取り組むことで、結果として人材育成につながるのではないかと思います。

人が育つための8つの条件

著者は、人が育つための条件として以下のような項目を挙げています。

  • 信頼関係がなければ人は育たないことを肝に銘ずること
  • 育成の目的を考えること
  • できる限り自由裁量を与える勇気を持つこと
  • 仕事の目的と成果を明確にするために、コミュニケーションし続けること
  • 強みの発揮を促し、勇気を持たせること
  • 必要なときに相談に乗り、手助けすること
  • 一緒に、横の関係でフィードバックと評価を行うこと
  • このプロセスを繰り返していくこと

どれも大切な観点に思えますが、8つも挙げられると覚えられません。なので、これらの条件の相関関係を考えてみました。

スライド1.png相関関係を整理してみると、これらの条件すべてが行動レベルのものであることに気づきました。つまり、人が育つための8つの行動と読み替えることができると思います。行動はすべての基本にあることは事実ですが、行動することだけが目的化してしまうと、形骸化を招いてしまいます。

おそらく著者は、それを回避するために、信頼関係がなければ人は育たないことを肝に銘ずることという条件(行動)を挙げたのではないかと思います。しかし、肝に銘ずるだけでは信頼関係を構築したことにはなりません。

感情レベルで必要なこと

上司と部下の間で信頼関係を構築するという話は、どこでも耳にします。どんな上司、どんな部下にとっても必要なことですが、案外できていない人たちが多いのではないでしょうか。

先に述べたように、行動レベルだけ気をつけてもダメだと思います。日頃考えていることですが、上司と部下の間で信頼関係を構築するために必要なことが感情レベルの内容なので、ご紹介します。

スライド2.png上司と部下のやりとりは、報連相が基本です。報連相は行動レベルの話ですが、部下が報連相するときに、上司に対して何らかの期待を抱くと思います。特に、問題が生じていて相談するようなときは、問題解決に資するアドバイスがもらえることを期待するでしょうし、問題が起こっていないときの進捗報告でも、よりわかりやすい報告にするための工夫点などが得られればうれしいものです。

これに対して、上司から部下に向けては感謝が必要だと考えています。何に感謝するのかと言うと、部下が期待を持って接してくれること、成果を上げるために努力していること、実際に成果を上げたこと、成長を遂げたことなど、すべてに対してです。これらは、行動レベルだと評価に相当します。褒める場合では当然ですが、指導する場合でも感謝の気持ちを持って接することが重要であると考えています。

部下から見れば、自分の行動に対して感謝の意を伝えられれば、当然のことながら承認されたと感じます。認められたと感じるということですね。こうなってくると、上司を信頼することができるようになり、その結果として従属するようになります。この信頼が、次の期待へとつながり、うまくサイクルが回ることによって信頼関係が構築されていくのではないかと考えています。

まとめ

人材育成が目的であっても、人を育てることを考えすぎず、能力を引き出して成果を最大化することを意識すれば、結果として人材育成につながるのではないかと思います。人が育つために必要なのは、行動レベルの条件だけでなく、感情レベルの条件も必要であり、期待・感謝・信頼を意識して行動する必要があると考えています。